Asian View

A Life in Hong Kong

他人から友達未満知人くらいになれたかな

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午後6時を過ぎた頃

一人ソファーに寝転がりながら夕陽を眺める私の耳に女性の金切り声が届いた。

何事かと思い玄関に近寄り耳をたてると、

カップルが普通話で喧嘩をしているのが分かった。

 

ここ香港に住まう人々は、日本で生まれ育った私には驚くほど感情豊かに話す。

ときおり喧嘩をしてるのかと思ったら、ただ議論しているだけで至って普通のテンションだということを知り衝撃を覚えることも間々ある。

ちなみに香港に住まう人々というのは、数世代前に中国から脱出した人たちで永住権をもつ「香港人」と称する人たちと、

永住権(ビザを申請し7年で取得可)を持っていたりいなかったりするけど、

自分の代で中国から香港に移住してきた人たちがその主である。

(余談だが香港には俗にいう「原住民」にあたる部族の末裔の方々も存在するが、彼らは香港にあっても独自の規律のもと生活をする少数部族とされ、前述の方々とは異なる世界にあると、外国人の私には感じる。)

 

話を戻すが、それらのどのバックボーンの人にあっても、やはり皆、意見をはっきりと表明し、感情豊かに話すのが香港の人たちの特徴。

冒頭金切り声をあげた女性というのは、おそらく、3つのカテゴライズのうち、2つ目に属する人であろう。

私の住む家は、住人の多くが外国人、もしくは持ち家のリノベーションの期間だけ短期滞在をするローカル、といった方々が多く、そういったことから彼らは大陸から越してきて間もないカップルだ、ということが推察できるわけである。

 

彼女の声は、部屋の中にいる私の耳まで届くほどのもの。

しかも彼女は自身の部屋の中で叫んでいるのである。

我が家の隣でも向かいでもない。数件離れた斜向かい、といったあたり。

日本の物件に比べれば壁が薄いのは否定できないが、それにしてもである。

ここまで聞こえるというのは、相当な剣幕で罵りあっている証だ。

 

大きなお世話かもしれないが、なんだか私は放っておけなかった。

とはいえ、夫の不在中。

変なトラブルに巻き込まれては、それもまた夫に申し訳ない。

しばらく様子を見ていた(否、正確には部屋の中で耳を傾けて様子をうかがっていた)。

 


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30分も経過した頃だったであろうか。

「バンッ」と扉の閉まる大きな音とともに、すすり泣く女性の足音が我が家を通過した。

 

「あぁ 飛び出してきちゃったのか」と思ったら、彼女は我が家の先にある通路の窓辺でしくしく泣いているようだった。

日本も寒波がきて冬本番となったとニュースで耳にしたが、それに比例して、温暖な香港にあっても寒さを感じるようになった。「寒い」と言っていい部類の気候に突入したわけである。しかも湿度の高いエリアなので、気温の数値だけでみるとそれほどのものでなくても、寒さは体に突き刺さるほどになっている。

そんな中、彼女はひとりシクシク泣いているわけだ。

 

オイルヒーターがカチカチ音を立てる部屋でぬくぬくしている私は、居てもたってもいられず、扉をあけて彼女に近寄り、声をかけた。

普通話で喧嘩をしていたので、英語が通じるか不安だったが、少しはわかるようで意思疎通をとれた。

それでも彼女は立ち上がれず、通路に座り込んで泣き崩れている。

普通話が達者ではない私には、喧嘩の原因はわからないが、こんな寒い中彼女をここに放置している彼(旦那さん?)もどうかしている。

なんだかかわいそうに思い、部屋から大判のストールを持ってきて肩にかけてあげた。

 

人は優しくされると吐露してしまう生き物なのか、

彼女は声に出して泣き始めてしまった。

何年ぶりだろう、いや人生初めてかもしれない。

大人の女性の頭をなでている自分がいた。

肩をトントンして、頭を何度も撫でてあげて、ずっと英語で「大丈夫か?」って「泣かないで」って励ましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやっと彼女も気持ちが落ち着いたころ、部屋には戻りづらいだろうと感じた私はうちでお茶でも飲むか(喝茶?喝茶?)?と片言の普通話で誘ってみた。

なんといっても我が家は彼女の家の斜向かいである。

階下のロビーなんかより、全然居心地はよいはずである。

 

というわけでまさかの突然ではあるが、ひょんなことで我が家にお招きすることになった。

(ちなみに注意事項だが、香港では面識のない人は、自宅に招くのはちょっと危険なので真似をしないように。)

 

紅茶を飲んで少しリラックスしたようだ。

おそらく年齢は私に近い世代か同じ位。そんなわけでちょっと気も緩んだようだ。

そういえばワインがあったなと思いだし、2つグラスを用意。

大学時代即席で学んだ片言の普通話のおかげで、なんとか彼女の言ってることは理解できた。

啖呵をきって出てきてしまったのであろう、きっと部屋に戻るのもかなり勇気のいること。お酒で現実を解決することはよくないが、しかしながら勇気を出せる稼働力くらいになってくれれば、酒も薬と変じるのである。

私はワインを勧めながら、彼女の話に耳を傾けた。

 

「大丈夫だよ。何かあったらまたおいで。」

 

どうやら喧嘩の程度が深刻だったので、

彼女が笑顔になることはなかったが、

夕陽が沈み暗くなると「ありがとう」と私にハグをして、

彼女は自室に戻っていった。

 

大丈夫かな、仲直り、できたかな。

今度すれ違ったらまたお茶に誘ってみよう。

 

一人オイルヒーターにへばりつきながら、そんなことを思う土曜日のお話。